村には多くの禁忌(キンキ)が残されている。個々の家にも、トウモロコシを耕作してはいけないとか、猫を飼ってはいけないとかいうものがかなり多い。特に馬渡(マワタシ)の名和家には古来、鰻を食べてはいけないと伝えられているが、その根拠は庚申様を祀っているからである。
 庚申様は四国金毘羅宮にある象頭山庚申山に由来し、金毘羅つまり宮毘羅大将の信仰に基づくという。金毘羅は元来、天竺霊鷲山に住む魚を祭神と仰ぎ、それは鰻形をして、尾には宝玉をもっている。だから金毘羅すなわち庚申信仰には鰻は禁物といい、さらに字義から、庚申は「かのえ申」つまり「金が我身から去る」に縁づけ、つとめて庚申を尊信して金持になりたいと願う余り、こうなったのだと名和家では説明している。
 これはある一族のみのタブーであるが、さらに集落全体のタブーとなっているものも相当にあるようだ。
 上勝田や馬渡等の八坂神社すなわち天王様のある所では、だいたい胡瓜は食べないのである。これを上勝田では、その切り□が天王様の紋所と同じだからといい、馬渡では、天王様との関係ははっきりしないが、昔、誰であったか忘れられてしまったが、高貴な方が戦いに敗れ、追われて胡瓜畑に身をひそめ、難をまぬがれたからだと伝えている。
 下勝田では牛を飼育しない。それはここの鎮守が菅原道真を祀った天満宮だからだといい、飯塚では白色の生物を飼ってはいけないのである。それは、鎮守の乗馬が白馬だからだといい、さらに太田では豚とアヒルを飼ってはいけないのである。これも、そこの鎮守が豚とアヒルはきらいだからだとし、ある家では、アヒルを飼育したとき、主婦の死の不幸にあったと伝えている。
 さらに前述の臼井の阿弥陀田は阿弥陀様の移り給うた所だから、その水田には肥料はいっさい入れてはならないのである。もし入れると稲が実らないだけでなく、作人は狂い死ぬという。
 天辺(アマベ)では、道祖神の境内の立木を切ると、その人は病み、ある人は死んだときに□がまがったといわれ、だれも切る人はいない。
 こうしてタブーはいずれも、あるいは神の機嫌を損じ、あるいは神の御座所をけがしたりして、そのいかりにふれないように、という原始信仰の生みだしたものであろうか。
担当 菅 勇二