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下勝田から直弥に通ずる道路の左側の水田に面したところに南向きの崖がある。その中腹に洞窟があって、俗に「隠れ里」と呼んでいる。あるいは八木房田(ボウダ)まで続いているなどと言われるが、昔、夜更けて人が寝静まると、ここから米を搗く音が聞こえてくる。そして村人が什器の不足にこまるとき、そこへいって「お膳100人前、貸してください」といえば、翌朝は必ずこの付近に並べられており、使用後もとの位置にもどしておくと、いつの間にか見えなくなっている。まことに不思議なことだと伝えている。しかも、これはかの天慶の乱(939)の落武者が隠れ住んで、なせる業だというのである。 椀貸し伝説は「たんたん山」にも伝えられているが、これは、九州から東北地方まで広く分布している。しかも、狭い地域に相接近して伝えられているのが普通である。 そして下勝田では、旧家である八木の房田の背戸山まで通ずる地下道があり、たんたん山では、その御城の住人には普通の百姓は会えないのである。隠れ里と結びつく椀貸し伝説は、たまたま通行を許された者が、たいていは家が富み、永く栄え、旧家として久しく家柄を誇るのがごく普通の形式であるが、ここではこの後の部分が忘れられてしまっている。 |
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担当 菅 勇二 |